Consultation case
本来賃金は、労働者が労務を提供して初めて請求できるものです。ノーワークノーペイ(働いていない状況下で、賃金を支払わない)の原則とも言います。
しかし、民法536条では、「債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」と定めていますので、自宅待機の理由が、会社都合による場合には、賃金を支払わなくてはならないこととなります。
したがって、会社が、従業員を元請けからの発注がないことから自宅待機とした場合は、自宅待機の理由が、会社都合による場合と考えられますので、会社は従業員に対して、賃金を支払わなくてはなりません。
もっとも、天災や政情の悪化など自宅待機命令については、使用者に責任がない場合も考えられます。このような場合には賃金を支払わなくてよいと判断されることもあります。
そして、賃金を支払うとして、その額が問題となりますが、労働基準法26条で、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当てを支払わなければならない。」と定められおり、賃金を全額支払う必要はありませんので、少しほっとされるかと思います。
もっとも、就業規則や雇用契約書において、賃金を全額支払うとしている場合には、賃金を全額支払う必要が生じますので、就業規則などは人任せにせずに把握されることが必要です。
「会社の苦しい時だというのに、従業員は全然わかってくれない。」、「払えないものは払えない。会社に破産しろというのか。」と、経営者としては悲鳴を上げたくもなります。しかし、労働基準法は、労働者側の権利を守るための法律です。
ただ、裁判実務は、誠実な対応をしている会社に対しては、比較的好意的な対応をしてくれることも事実です(それだけひどい会社が多いということでしょうか…)、今回のご相談でも、会社として必死に従業員のために生活が保障できるようにしてきたが、それでも世の中の情勢が厳しく、会社だけの力では何ともならない、という場合には、使用者としてやるべきことを尽くしたとして、使用者の責めに帰すべき事由にあたらない、という判断もありうると思われます。
また、会社が従業員の人件費で倒産してしまっては、従業員の方にとっても、よくありません。
実際、従業員のことを思って会社を経営されている社長さんであれば、いざというとき、従業員さんは一丸となって会社に協力してくれることも多いです。
そのような時は、経営者としては、言い出しにくいことは重々承知しておりますが、会社の状況を従業員の方に誠実に話をして、従業員の方に基本給の減額を了解してもらうなどし、対応するのも良いかと思います。
大成された経営者の方の中にも、従業員のおかげで倒産の危機を乗り越えられた、とお話をされる経営者の方は多いものです。